0022/01/27

Diagnosis という語の意味


孫子曰く、「 彼を知りて己(おのれ)を知れば、百戦(ひゃくせん)して殆(あや)うからず。

あまりにも有名な言葉です。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず。」という表現で耳にすることも多いかと思います。

同じことが、医療にも当てはまります。ここで問われるのは、診断(diagnosis)が正しいか、正しくないかです。diagnosisという言葉は、ギリシャ語のdia- (通じて、完全に)と gnosis(知識)という語からきています。つまり完全な知識を意味します。

したがって、正しい診断がなされたということは、それは敵(病気とそれに関連する状態)と自分(医療を行うにあたっての種々の制約)についての、完全な知識が得られたことを意味します。そうなれば、百戦して危うからずということになるでしょう。

また、孫子はこうも言っています。「 彼を知らずして己(おのれ)を知れば、一勝(いっしょう)一負(いっぷ)す。彼を知らず己(おのれ)を知らざれば、戦うごとに必ず殆(あや)うし。

もし、次に診断を聞くことになった時には、それが「完全な知識」であることを願いたいものですね。

0022/01/17

百戦(ひゃくせん)百勝(ひゃくしょう)は善の善なるものにあらざるなり。


孫子曰く、「百戦(ひゃくせん)百勝(ひゃくしょう)は善の善なるものにあらざるなり。戦わずして人の兵を屈(くっ)するは善の善なるものなり。」

私たちは現代医学が可能にした数々の奇跡を自慢しますが、そもそも、救うべき苦境がなければその奇跡には意味がありません。最初から、そのような苦境が生じないことが何よりなのです。

すでに述べた通り、医療が病気との戦争であり、詭道であるということから、その戦力を動かさないですむならそれに越したことはないのです。特にからだにダメージを与える医療行為は、可能なかぎり避けたり、必要最小限にとどめることが一番よいのです。

専門家の治療を全く受けないで健康を保つことが、どんなに非現実的だとしても、理想です。孫子はこの理想に少しでも近づく方法についても教えてくれます。

孫子曰く、「昔の善(よ)く戦う者はまず勝つべからざるをなして、もって敵(てき)の勝つべきを待つ。」

まるで孫子は近年の予防医学の重視への変換を見通していたかのようです。戦いの準備が整えば整うほど、やむを得ず戦う羽目になることは少なくなります。究極的には全く戦わずして敵を破ったり押さえたりできるでしょう。

「汝平和を欲すれば、戦争を準備せよ」ですが、これは武器を積み上げることではなく、戦略を練るということなのです。

0022/01/14

兵とは詭道なり。医療もまた然り。


孫子曰く、「兵とは詭道なり。」 これに「医療もまた然り。」と続けたならば、とても信じてもらえないでしょう。

かつてのように医師が全ての決定権を握る時代ではなく、最近の医療はインフォームドコンセントや、患者の満足度や、自己決定権や医療倫理に重点がおかれているので、なおさらそんな言及はおかしいとおっしゃるでしょう。

しかし、冒頭の言葉は、特に専門的な医療サービスにおいては、極めて妥当であると思います。問題は詭道を用いる相手が何かということです。

最高の治療結果を得るためには、医療従事者と患者との間の相互理解が非常に大事です。ですからもちろんここに用いるわけではありません。しかし、両者の共通の敵についてはどうでしょうか。望ましくない健康状態やその原因こそ、詭道を大いに用いて対応すべきものです。

では、なぜ詭道なのでしょう? なぜならばある健康状態について専門的な医療介入(治療)が必要となる時には、その状態が、人間の肉体的、精神的、社会的な問題に対する対処能力を超えているということだからです。その状況を生んでいる原因を無力にするためにも詭道が必要ですし、その原因に対する我々自身の防御機構が過剰反応するのを防いだり、反応が鈍いのを改善するためにも詭道が必要です。

実際、全ての医療行為は、もし資格のないものが実施すれば、即犯罪行為なのです。

戦争で戦う敵と同じように、健康に関する問題の要因もまた我々に対して情け容赦ありません。ですから我々は詭道を用いてそれらと戦わなければならないのです。

0022/01/13

新年の決意

今年から、記事のスタイルを変更し、英語版の記事を日本語版でもほぼ同じ内容で投稿していくことにしました。今年もよろしくお願いいたします。


昨年はほんの少しの記事しかかけなかったので、今年はもっと頻繁に記事を書こうと思います。

Quest for the Holy Grail of Health Informatics で紹介した私の探求ですが、容易ではないにしろ、いくらか明るい兆しが見えてきました。しかし、このたった今進行中のテーマをブログに書くのはなかなか大変なので、このブログのスタイルをこれから変えたいと思います。

孫子の兵法』については、お聞きになったことがあるのではないでしょうか。最近私は全文を読み切り、またこの古代の叡知を特集したヒストリーチャンネルのテレビ番組を観て、この2,400年前の文章が今日に至るまで、全く慈悲を期待できない敵に対して勝つための知恵として包括的でかつ妥当であり続けていることに非常に感銘を受けました。

医療は文字通り、孫子が兵法について述べたように「死生の地」です。実際、医療は私達にとって負けられない戦いであり、個人にとっても国家にとっても「存亡の道」です。

孫子が『用間篇』で一章全てを割いてインテリジェンス(諜報活動)について述べたように、医療においてもインテリジェンス(情報戦略)が非常に大事です。医療ITとはまさにインテリジェンスが意味することそのものです。

そこで、ここでは『孫子の兵法』の原則を医療ITまたは医療自体にどう応用できるのかを議論していきたいと思います。実はもう既に引用したい箇所のアイデアで頭があふれそうになっています。ご期待下さい。