0021/10/12

お手本と雲形定規

「医療のIT化が医療の質と安全を向上させる」というキャッチフレーズを聞いて、最適の医療プロセスをプログラミングされたコンピュータが、資料従事者の一挙手一投足を指示し、その指示の通りに治療をこなしていくという、いわゆる医療従事者が機械に使われるイメージを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。

これは、昔の精密制御に使われたコンピュータのイメージのせいだと思います。30年以上前に世間を驚かせたスターウォーズの特撮はコンピュータでシャッターを含む全ての動作を制御するモーション・コントロール・カメラを使用することで何重にもフィルム合成を可能にしたことで実現していましたが、このように与えられたお手本を忠実になぞるように、プログラムされた仕事を何万回も文字通り寸分も狂いもなくひとつの手順も誤ることなく繰り返すオートメーション式の医療を思い浮かべてしまうのでしょう。

しかし、最近の特撮ではコンピュータ・グラフィックスによる合成が当たり前になっているように、最近の医療ITのテーマとしては、現実の医療をいかにコンピュータ上、ネットワーク上に再現するかが大きな課題となっているのです。さらに最近のコンピュータ・グラフィックスが単に実写を忠実に再現するだけでなく、実写では再現できない世界を、実写以上の臨場感で表現することを目指しているように、医療ITも、コンピュータやネットワークなしでは実現できなかったような医療をも実現しようとしています。ゲノム医療はその最たる例でしょう。

そこで問題となってくるのが、コンピュータ・グラフィックスと同じく、医療の世界をどのようにモデル化するかです。それも、ただ忠実になぞるためのお手本ではなく、必要に応じて自在に曲線を引ける雲形定規のようなシステムが望まれるのです。